名前も知らないあなた。
ギュウギュウの満員電車を抜け、会社へと続く道。
いつものように、猫背気味で近づいてくる姿を見つけた。
あなたの歩き方は遠くからでもすぐにわかる。
背中を少し丸めガニ股で、大きな肩を揺らしながら白いシャツが近づく。
言葉を交わしたことはない
どこの誰かも知らない
でも毎日必ずすれ違う
互いに互いの存在は気付いてる
あなたとすれ違う瞬間にキュッと口角が上がる私。
私とすれ違う瞬間に「うん。」と大きく頷くあなた。
今日もいつもと変わらないことを確かめたように、
一瞬、ほんの一秒にも満たない程度だけぶつかった目と目。
そしてまた前を向き、あなたは大きく頷く。
名前も知らない
どんな人かも知らない
知っているのは、平日7時48分の電車に乗ると会えることだけ
そして今日も乗り込む
いつもと同じ時間
いつもと変わらない
朝のささやかな楽しみ